再狭窄率0%へ
 Drug−Eluting Stentを直訳すると、『薬が溶け出すステント』という意味です。
 現在、インターベンション(身体に内科的に介入する治療)業界での1番の課題は、術後の再狭窄率をいかに減らすか、いかに0%に近づけるかといういうことです。
 カテーテル療法では、再狭窄率が、バルーン療法(風船療法)で30〜40%、冠動脈ステントで20〜30%でした。冠動脈ステントは、バルーン療法に比べ再狭窄率を大きく軽減させることができましたが、血管内に留置したステントのストレスによるステント内再狭窄という問題を残しました。
 ステント内再狭窄の要因は、血管に対するステントのストレスによる、余分な内膜肥厚・平滑筋細胞の増殖が挙げられます。
 そこで、ステントに薬を塗布し、薬の効果によって余分な内膜増殖を抑えることで、再狭窄率を0%に近づけるべく、現在世界で研究開発されているのがDrug−Eluting Stentです。
Drug−Eluting Stent開発の課題
Drug−Eluting Stentの開発にあたっての課題は、主に次のとおりです。
薬剤
Drug−Eluting Stentに塗布される薬剤は、通常2つの作用のカテゴリーに分類されます。
 上記のような作用を持つ薬剤の中から、Drug−Eluting Stentの開発企業は、より有効性が高く、安全で、副作用のない薬剤の発見を巡って、日々研究に励んでいます。他企業の現在までの治験において、細胞増殖抑制作用は、細胞毒性作用よりも、より良い有効性と安全性が認められています。
 また、塗布する薬剤の量も、Drug−Eluting Stentの開発においては大変重要なファクターとなります。上記のとおり、塗布する薬剤が、細胞増殖抑制作用、細胞毒性作用といった強力な作用を持っていることから、現在、色々な治験でどのような量が効果的か、試験が実施されています。
Drug−Eluting Stentの目的は、塗布する薬剤の効果によって余分な内膜肥厚・平滑筋細胞の増殖を抑えることですが、目的は同じであっても、塗布する薬剤が、細胞増殖のプロセス(Cell Cycle)の何処に作用するかによって、おのずと効果に違いがでてきます。
Cell Cycle
ヒトをはじめ、生命を持つ全ての生物の成長・増殖には細胞分裂が関係しています。細胞分裂が始まって次の細胞分裂に至るまでの過程を細胞周期(Cell Cycle)といいます。ここで、塗布する薬剤との関係で、細胞周期について簡単にまとめると次のとおりです。

細胞増殖のプロセスで形態学的に分裂が認められる時期を“M期(分裂期)”といいます。そののこり(G0期・G1期・S期・G2期)、すなわち分裂と分裂の間で細胞分裂の見られない時期を“分裂間期”といいます。
 細胞は、分裂に先立ち、一時期の休止(静止)期(G0期)をとり、‘分裂間期’の一定期間に前もって核内でDNAが合成・倍化し、DNA分裂の際に新生される細胞に均等に配分します。その結果、分裂によって母細胞と同じ遺伝子をもつ娘細胞が形成されます。
 当社の子会社アバンテック社が、ノバルティス社と全世界対象のライセンス契約を締結したPimecrolimusは、Cell Cycleの最初の段階(G0期)に作用する効果を持っています。

コーティング技術

どの位の期間にわたって薬剤の効果を持続させるか、つまり、どの程度のスピードで塗布されている薬剤を除放するかDrug−Eluting Stentは、塗布する薬剤の選定と同様、重要な課題です。
 ここで、薬剤のリリーシング・コントロール(薬剤を除放する速度のコントロール)は、コーティング技術(薬剤をどのようにステントに付着させているか)に大きく依存することとなります。
 開発の初期段階では、様々なコーティング法が研究されましたが、現在では、ほとんどの企業で、高分子化合物であるポリマーを利用してステントに薬剤を塗布する方法に集約されてきており、いかに優れたポリマーコーティング法を開発するかに、開発の焦点が移ってきています。

独自のコーティング技術

当社は、米国に最先端製品の研究開発拠点、アバンテックヴァスキュラー社を持っており、優れたポリマーコーティング技術を研究開発しています。
 アバンテックヴァスキュラー社の保有する独自のコーティング法として、次の2つの方法があります。
@ 生体適合性に優れたポリマーを用いて独自のコーティング技術によりコーティングする。この方法では、薬剤の除放の後も、ポリマーコーティングが残存することになります。
A 生分解性ポリマーを用いてコーティングする。この方法では、薬剤の除放とともに、ポリマーコーティングが消失することになります。
いずれの方法も、薬剤のリリーススピードや、その濃度のコントロールが非常に優れています。

プラットフォーム(ステント)

最後に、薬剤を塗布するプラットフォーム(ステント)も、基本性能を左右する重要な要素となります。
 当社では、プラットフォームとして自社製ステントDuraflexを保有しています。
 Duraflexステントは、現在、市場で販売されている冠動脈ステントの中で、より良い成果をあげています。PTCAを行なう心臓内科医が、ステントで最も重要視することは、ステントの柔軟性です。術者は、病変部に到達させるために、曲がりくねった構造の血管を通してステントを押し進めて行かなければなりません。
 一方で、ステントは、一度広げた血管が、また元に戻ろうとする圧力(血管がまた狭くなろうとする力、元に戻ろうとする力)に耐えなければなりません。
 Duraflexは、第三者機関によるベンチテストで、世界で競合するステントと比較しても、柔軟性とともに耐圧性が非常に優れているとの試験結果を得ています。

Drug−Eluting Stentの現状

Drug−Eluting Stentは、いわゆる4大メジャーを含め多くの企業が、その開発にしのぎを削っています。現在、最大のDrug−Eluting Stentマーケットである米国の企業が2社、Drug−Eluting Stentの開発に成功し、世界中の多くの国で販売を開始しています。
 ただし、Drug−Eluting Stentの留置にあたり、抗血小板薬の服用が必要であり、薬の副作用などで患者さんが死亡する事例も発生しており、未だ完成とは言いがたい状況です。

 ステントの市場規模は全世界で約50億ドル(5千億円)程度とみられており、Drug−Eluting Stentの登場で今後も増加していくものと考えられています。
 未だどの企業も、医療現場が満足するDrug−Eluting Stentの開発に成功していない状況の中、世界中の企業が、その市場に参入すべく、独自の技術を用い、より安全で、治療効果の高いDrug−Eluting Stentの開発を目指し、競争を繰り広げています。

 当社では、薬剤としてノバルティス社とPimecrolimusの全世界対象のライセンス契約を締結いたしました。Pimecrolimusは、動物実験で、内膜増殖を抑制させる非常に良好な試験結果を得ています。また、Pimecrolimusは、幼児のアトピー性皮膚炎の治療薬として世界中で広く使われていることから、非常にソフトな薬剤であり、危険な副作用も心配ありません。
 一方で、当社では、プラットフオームとして最も優秀な冠動脈ステントのひとつであるDuraflexを保有しており、コーティングに関しても独自の優れた技術を既に確立しております。薬剤に関してもPimecrolimusのほかにも、効果の期待できる数種類の薬剤を発見しています。
 当社も、Drug−Eluting Stentの開発競争は、まさに始まったばかりと考えており、より安全で、治療効果の高いDrug−Eluting Stentを世界に先駆けて開発できるよう、日々、研究開発に励んでいます。